大学を卒業するころは、専攻を生かして歴史系博物館の学芸員か高校の社会科教諭になりたいと思っていた。挫折して一時はある団体の事務職に就いたが、その数か月後、ひょんなことから雑誌編集者となる。出版業界を10年ほど渡り歩いたあと、一本の求人広告によって転機が訪れた。ちょうどバブルがはじけて数年くらいのことである。

それは、あるビル管理会社がプラネタリウム解説員を募集するものだった。天文学専攻でもなく理系出身でもない身の上だが、よく見るとその点は不問らしい。考古少年と化す前は天文少年の端くれだったこともあり、即座に応募した。会社が管理運営を受託した、都内の新設プラネタリウム館に解説員として着任したのは、オープンの半月前だった。

新人とはいえ、お客様からはプラネタリウムにいる星の専門家という視線が来るわけで、天文学の基礎的素養は必要である。専門職としてプラネタリウムに勤めている人は、文系大学の出身であっても、天文少年少女として天文知識をごく自然に身につけてきたという人が多い。学生時代のサークル活動で天体望遠鏡に親しみ、星空の愉しみを知りつくしている人も少なくない。

星好きもいろいろで、自分は天体観察よりも星座を探すのが好きだった。どちらかといえば望遠鏡には無頓着だったが、これからはそうはいかない。年若い同僚たちとのビハインドを埋めるべく、猛勉強で天文スキルのアップデートがはじまった。30歳をすぎての挑戦ではあったが、それまでの経歴は必ずしもハンディにはならないこともわかった。

プラネタリウムの実務では学芸知識に加えて、機器操作やコミュニケーション能力も不可欠である。最新の知見をお客様の前で、わかりやすくアウトプットできなければならない。これには編集者経験が大いに役立った。

それから十余年。プラネタリウムをとりまく社会情勢も、大きく変わりつつある。これまでに利用者の減少で閉館に追い込まれていった館があるいっぽう、投影機の更新によるリニューアルに成功した館も少なくない。ひとまず勝ち組となった最新鋭ハイテク館を中心に、翳りのあったプラネタリウム人気は盛り返しているようにも見える。だが、その先は?

生涯学習、ボランティアとの協働、指定管理者制度……。確かに吹きはじめた新たな時代の風は、私たちのプラネタリウム館にとって追い風となるだろうか。逆風となるだろうか。