猛暑の東京、白金まで有元利夫展を観に出かけた。抽象的な風景に人物一人という構成が多くみられる有元作品は、一度見たら忘れられない、古風で 不思議な空気感が漂う独特の作風がある。西洋のフレスコ画や日本の古美術絵画の影響を受け、「染み込みこびりついたような強さ」と「風化による欠落」を 作品の中に持たせることを意識していたという画家は38歳で夭折し、今年で没後25年。

“天空の音楽”という展覧会のサブタイトルにもあるように、宇宙や音楽をテーマにしたものが多いのも有本作品の魅力だ。美術館の入口にあった看板に使われていたのは、「厳格なカノン」という作品である。他にも「星の運行」「部屋の星座」「土星」「七夕の夜」「オラトリオ」「フーガ」「楽典」「ソナタ」「ポリフォニー」「ロンド」「7つの音」といった作品名が展示リストに躍る。DENONレーベルの古楽系のCDジャケットに多くの有本作品が使われていたりするので、クラシック音楽のCDを店頭で物色していると思いがけず目にすることもある。

バロック音楽がお気に入りだったという有元氏は、とくにヴィヴァルディの「磨きのかかったマンネリ」を絶賛しており、協奏曲集『四季』をテーマにした“Les QUATRES SAISONS”という石版画集を制作している。また、版画集“12 pieces of BAROQUE MUSIC”は、ヴィヴァルディのほか、クープラン、パーセル、バード、バッハ、テレマン、ヘンデル、シャルパンティエらの楽曲へのリスペクト。さらに『七つの音楽』という銅版画集では音楽家に作曲まで依頼して、楽譜とセットの”画曲集”に仕立てた。いずれも今回、ガラス越しではあるけれど現物を見ることができた。

解説図録に掲載されていた作家の文章には、「音楽を聴いて感じることを絵を見て感じることができるような試み--絵画で音楽感をつくりたい」とあった。その意図するところは、作品につけられた題名を拾い出してみるだけでも、充分に感じることができる。

前回展覧会で観たのは2001年のことだから、もうだいぶ前になってしまった。あのときは大正時代に建てられた東京駅の煉瓦の駅舎にあった「東京ステーションギャラリー」が会場だったけれど、今回は昭和初期の旧朝香宮邸での展観だ。やはりこの人の作品展は、こういう歴史あるたてものがとても似合うなあと、改めて強く感じた。