バブル最盛期の頃は、夏ともなれば都会を離れたちょっとしたリゾート地を舞台に、今では考えられないような超豪華なパーソネルをNYから招いての大規模なジャズ・フェスティヴァルがいくつか開催されていたものだ。「夏に一流ジャズメンの演奏が聴きたけりゃニューヨークではなく日本へ行け!」というジョークまで言われていたほどである。今世紀に入る前後あたりから下火加減になって久しいけれど、残暑厳しい9月の東京・丸の内で、その系譜にあるようなジャズフェス“東京ジャズ”が9回目の開催を迎えていた。この春から小学校の吹奏楽クラブでトロンボーンをはじめたばかりのウチの小4坊主が少しばかり興味を示したので、土曜の昼下がり、会場の東京国際フォーラム・地上広場で行われていた無料のステージを、家族で聴きに行ってみた。

会場に着いたら、めざす「ザ・マイク・ノック・“東京”ビッグ・スモール・バンド featuring 中川英二郎 and 太田剣」のステージはラストワンの演奏中。トロンボーンの中川サンのパフォーマンスをお目当てに出かけたのだけれど、新丸ビルの地下街でのんびり昼食をとっているうちに時間を間違えてしまったようだ。でも2曲は聴けたので、まぁ、よしとしておこう。

バックステージというものがない特設会場ゆえに、終演後のミュージシャンたちは、私たちと目と鼻の先の広場を通りがかり、お客さんからかかる声にも気軽に応じているようだ。そこで、坊主に「せっかくだから握手かサインでもしてもらってきなよ!」とけしかけてみた。ふだんはナマイキな口をきくくせしておいて、こんなときは「一緒に来て~」と恥ずかしそうに懇願してくるあたり、まだまだ修行が足りない愚息。あとで残念がられるのは目に見えていたので、その手をひっつかんで、会場を去りかけていた中川英二郎サンのもとへ急ぎ、呼び止めてしまった。

さぞかしご迷惑かと恐縮つつ、乗りかかった船とばかりに演奏を楽しませてもらったお礼を述べ、握手を求めたところ、ありがたいことに快く応じてくださった。しどろもどろの坊主に代わり、吹奏楽クラブで「ウォーターメロンマン」などを練習したことなどお話しすると、「僕は6歳頃からトロンボーンを吹いているよ」と返してくれた。図々しくもサインをお願いすると、これまた快諾していただいた。かぶっていたNIKEのキャップにサインをしてもらったうえに、一緒に記念写真まで撮らせていただきました。

じつは「中川英二郎」の名はずいぶん前から知っていた。’90年代のこと、彼が16歳で録音した初リーダーアルバムが出たとき、ホレス・シルバーの名曲2曲のカバーに惹かれてCDを衝動買いしたのが懐かしい。以来その名を記憶することになったが、最近の活動ぶりはよく存じていなかった。昨今では世界のオゾネ氏が結成したビッグバンド“No Name Horses”の主力プレイヤーとしても活躍中だったのですね。かつてCDジャケットの写真にちょっと背伸びした雰囲気でおさまっていた少年は、気さくな好青年となって眼前に現れたのだった。

楽器ケースを肩にかけ「また遊びに来てくださいね」と、さわやかに去っていった中川英二郎サン。お忙しいところ小さなファンにも優しく接してくださり、本当にありがとうございました。